「お邪魔しま〜す。」
私は呼び鈴を鳴らすことなく、ガラガラと扉を開けると、勝手に目の前の家へと入る。
「おう、待ってたぜ。」
もちろん、そんなことができるのは、ここの住人と親しく、また住人がテキトーな人物だからである。決して、誰の家でも、こんなことをしているわけじゃない。
ただ、テキトーとは言っても、普段は「勝手に入って来るなよ。・・・・・・まァ、いいけど」ぐらいのツッコミはする。それなのに。今日は、やけにあっさりと迎え入れてくれた。・・・・・・もう慣れてくれたんだろうか。
とにかく、私はいつも通り家に上がり込み、今日会いに来た人物を探す。
「・・・・・・あれ?神楽ちゃんは??」
「神楽なら、今日は帰って来ねーぞ。」
「え、なんで??」
「新八の家に行かせたからな。」
「ふ〜ん、そう。せっかく、神楽ちゃんに酢昆布持って来たのに。」
そう言いながら、私は持っていた袋をドサッと机の上に置いた。
「じゃ、神楽ちゃんが帰って来たら、これ渡しといてー。それじゃ。」
「待て待て。」
「・・・・・・なに?」
「なに?じゃねェだろ。今日は何の日だァ・・・・・・??」
住人は、自分が私の目的でなかったことに、少し納得いかないらしく、不機嫌な声で私を呼び止めた。半ば帰りかけていた私だったけど、無視する気は無いので、ちゃんと住人の方に振り返って即答する。
「バレンタインでしょ?だから、神楽ちゃんにこれを持って来たんじゃない。」
「俺には?」
「神楽ちゃんに、酢昆布分けてもらえば?」
「イ、ヤ、で、す!!俺は甘いのがいいの!」
いい歳こいて子供か、お前は・・・・・・!!
と思わず、ため息が出る。
はァァァ・・・・・・、本当。なんで、こんな奴を好きになってしまったのか、という意味でも、ため息を吐きたくなる。
・・・・・・結局、私はこの人を放っておけないんだよね。
「はァ・・・・・・。わかったよ。じゃ、何が欲しい?」
「の手作り!」
さっきまでの不機嫌とは打って変わって、今度はキラキラとした笑顔でそんなことを言う、目の前の男。
そんなことを言われたからには・・・・・・、張り切って作ってあげちゃうわよ・・・・・・!
なんて思ってしまう辺り、相当この男――銀時にハマってしまったらしい。
「別にいいけど・・・・・・。今から材料買って来て、家で作って、ここに持って来るとなると、結構時間かかるよ?」
「そんな大層なことはしなくていいって。この家にある物使って、ここで作ってくれりゃあいいから。」
「そうは言っても、この家に材料とかがあるとは思えないんだけど。」
「大丈夫だって。何とかなる。」
そう言って、銀時は笑顔で階下を指す。
・・・・・・なるほど。お登勢さんに譲ってもらおう、って魂胆ね。
とりあえず、譲ってもらうにしても、買いに行くとしても、まずこの家に何があるのかを確認しないと。
「え〜っと・・・・・・、冷蔵庫とか開けていい?」
「おう!」
全く・・・・・・。楽しそうにしちゃって・・・・・・。どんだけ甘い物が好きなんだよ。
でも、たしかに、甘い物は人を幸せにする、ってよく聞く話だ。それで、銀時が幸せな気分になってくれるのなら、私としても・・・・・・って、ヤバイヤバイ。本人の居る前で、そんなお花畑な思考をしてる場合じゃない。今は材料だ。
・・・・・・あれ?意外とある。・・・・・・いや、可笑しい。
「銀時・・・・・・。これ、準備してたでしょ?」
「バレた?」
「当たり前じゃない。お菓子作りできそうな材料が揃いすぎ。」
「そうか?まァ、そんなことはどうでもいいだろ?それより、何作ってくれんだ?」
また楽しそうに言う銀時。・・・・・・こういう顔を見せられると、本当幸せだって思えちゃうよね。
そんな銀時のために覚えたお菓子作り。それを思い出しながら、今日がバレンタインということも意識して材料を見ていく。これなら・・・・・・。
「ガトーショコラとか?」
「いいんじゃね?つーか、が作ってくれんなら、何でもいいんだけどな。」
私が作るから、じゃないくせに。要は、甘い物なら何でもいいんでしょ!
そうわかっているのに、少し嬉しくなってしまった自分が憎い。
もう・・・・・・。仕方ないから、ガトーショコラの上に、さらにホイップクリームも乗せてあげちゃうんだから!!
そう意気込みながら、私は銀時のためと言っても過言じゃない、お菓子のレシピを書き留めたメモ帳を広げた。・・・・・・さすがに、分量まで覚えることはできないからね。
「へえ〜。そんなの作ってんだ。」
「こういうレシピって、見てるだけでも楽しいからね。」
「意外なトコもあるんだな!」
「そんなことを言う人には、作ってあげません。」
「ウソ!ウソですッ!だから、作ってください・・・・・・!!」
「はいはい。」
本当、甘党だよね。体に悪いのはわかってるけど。今日ぐらい、食べさせてあげよう。
というわけで、私はさっさと器具を用意し、チョコレートを溶かすなどの下準備を始めた。その後、手際よく生地を作り、生地を焼いている間に、おまけのホイップクリームを作る。
それらを、銀時は私の横や後ろから見ていて、いい匂いだとか言いながら、いちいち私の動きに感心してくれていた。・・・・・・素直に嬉しい。
「それは・・・・・・クリーム?」
「そう。最後に乗せようと思って。」
「って、本当気が利くし、意外とマメだし・・・・・・結婚したら、いいお嫁さんになってくれそうだよな!」
意外と、は余計。と言い返そうと思ったけど・・・・・・そんなことができないぐらいに動揺する。
だって・・・・・・!!いいお嫁さんになる、ならまだしも!なってくれそう、ってことは・・・・・・。私が銀時のお嫁さんになる、ってことですかッ?!!そ、そんなこと・・・・・・!!
と焦っていると、思わず、かき混ぜているクリームが顔に飛んでしまった。
「・・・・・・、クリームが飛んでますけど。」
「いいの。終わってから拭くから。」
「手が空かないんなら、俺が代わりに拭いてやろうか?」
「大丈夫。」
「いや、やっぱ作ってもらってるんだから、それぐらいさせてくれ。」
「そう?・・・・・・じゃあ、お願いしようかな。」
何も動揺などしていない振りをして、私は落ち着いて銀時の方を向いた。すると銀時は、クリームが飛んでいない側の頬に手を添えた。それにもドキッとしたけど、とりあえずは何も言わず、拭いてもらえるのを待とうとした。・・・・・・けど、ちょっと、待った。銀時、何で拭くつもり?何も持ってないように見えるんですけど?!と思った矢先、銀時の顔が近付き・・・・・・。
“ぺろっ”
そして、銀時はまだ手を添えたまま、笑顔で言った。
「はい、取れた。」
ちょ、ちょ、ちょ!!な、何してくれてるんですか・・・・・・!!!!
さすがに動揺を隠し切れず、私は顔が熱くなる。
「ぎ、銀時!何して・・・・・・!!」
「何って・・・・・・クリームを取っただけですけど?」
だけじゃない!!そう言い返したいのは山々だ。でも、銀時が目の前で、ニヤリと笑いながら言うものだから、私は何もできなくなった。クリームをかき混ぜていた手も完全に止まり、うっかりボールを落としてしまいそうになる。
それなのに。
「あ、こっちにもクリームが・・・・・・。」
そう言って、銀時はまたスッと顔を近付けて、今度は頬でなく・・・・・・。
“ちゅっ”
く、く・・・・・・、唇の方に・・・・・・。
って言うか、こんな所にクリームが飛ぶわけないよね?!しかも、今、私混ぜてなかったよね?!!
心の中ではそんなツッコミが出てくるのに、口に出せたのは・・・・・・。
「銀、時・・・・・・!」
の一言だった。しかも、ちょっと言い方がやらしくなった気がする・・・・・・。
「つーか、マジでクリーム美味いんですけど。も味見してみるだろ?」
そんな私を気にすることなく、銀時はそう言いながら、私が持っていたボールからクリームを取り、自分でその指を舐めたあと、また私に口付けをした。
口の中に、クリームの甘みが広がる。・・・・・・・・・・・・なんて、呑気に言ってられるかァァァァァー!!!!!
「んッ・・・・・・はァ・・・・・・。ちょ、銀時ッ!」
「悪い。もう、いろいろと我慢できねェ。」
そう言って、銀時はまた指でクリームを取ると、今度は私の頬に付ける。そして、それを・・・・・・。
“ぺろ・・・・・・ちゅっ”
やっぱり、舌で器用に拭き取る。・・・・・・って、コラコラ!!なに、クリームプレイしちゃってんですか!!!!
でも、最早私に抵抗する力も、ボールを持つ力も無く、いつの間にかボールは銀時に奪われ、私はされるがままになってしまっていた。
・・・・・・あー、生地が焼けてきて、いい匂いがしてる。むしろ、焦げてるんじゃ?!なんて心配をする余裕は、もちろん私には無かった。
「その後、少し焦げてしまったガトーショコラと、可愛いは、俺が美味しく頂きました。」
「そんなこと、テレビみたいに言わなくていいの・・・・・・!!」
・・・・・・・・・・・・。・・・・・・やっちゃった★(黙れ)
いやぁ、本当やっちゃいました(笑)。でも、言い訳させてください!!こんなことになっちゃった理由は、一応あるんです!
ある日、久々にRIP SLYMEの「Hot Chocolate」って歌を聴いたんですね。そしたら・・・・・・こうなりました!(←)
本当、すみません!!でも、書いてて楽しかったです(笑)。
ただ、さすがにテニプリキャラで、こういうネタを書くのは、少し躊躇いがあったんです。だって、中学生でこれはマズイですよね?(笑)
というわけで、大人な銀さんに活躍してもらいました。・・・いやぁ、本当いろいろすみません(苦笑)。
('10/02/14)